体外受精 治療

体外受精の排卵誘発はマイルドな刺激の方がいいのでしょうか

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卵巣過剰刺激症候群にならないように軽めの排卵誘発が行われています

 体外受精の排卵誘発はいろいろな方法がありますが、一番よく使われているのは、GnRHアゴニスト・ロング法でした。

調節卵巣刺激法
体外受精の排卵誘発は状況によっていろいろな方法を使います

体外受精の排卵誘発についてわかりやすく解説します  体外受精は排卵誘発から始まります。毎日注射をするのがふつうの方法ですが、状況によっては注射を使わないこともあります。あなたが受けている排卵誘発法はな ...

 ロング法のよくないところとして

  • 卵巣過剰刺激症候群になるリスク
  • 病院に通う回数が多くなる
  • 注射の回数が多くなり費用がかかる

などがあります。

 これらのよくないところを改善する方法として、排卵誘発の刺激をよりマイルドにする方法が使われています。でも排卵誘発の刺激を弱くすると、取れる卵子の数が少なくなって、妊娠率が悪くなってしまうのが心配ですよね。

 私の病院でも卵巣過剰刺激症候群にならないように、あまり強い排卵誘発はしないようにしています。採卵数は5~10個くらいが多いですが、入院が必要なほど重症な卵巣過剰刺激症候群になる人はほとんどいません。

 今回は、マイルド法のメリット・デメリットを解説します。 

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マイルド法とは

 クロミッドのみやクロミッド+注射2~3回で排卵誘発をするのを低刺激法とご紹介しましたが、これをマイルド法と呼んでいる論文もあります。この方法だと採卵数は2~3個、多くて5も個くらいのことが多いです。

 今回はアンタゴニスト法で生理の5日目くらいから少なめの量で注射を始める方法をマイルド法として考えてみます。

マイルド法とGnRHアゴニスト・ロング法の比較

採卵数

 ヒューマン・リプロダクション・アップデートの論文です。マイルド法の採卵数の中間値は6個、GnRHアゴニスト・ロング法の採卵数の中間値は9個で、マイルド法の方が当然ながら少なかったです。でも、意外とそれほど大きな違いではありません。マイルド法といっても毎日注射するのでそれなりの採卵数になります。

妊娠率

 マイルド法の、治療を開始した人あたりの妊娠率は15%、GnRHアゴニスト・ロング法の妊娠率は29%でした。マイルド法の場合、GnRHアゴニスト・ロング法よりも治療を開始したけれども、胚移植までたどり着けなかった、キャンセル率が高くなるので、胚移植あたりの妊娠率で考えるとこの差はもう少し小さくなります。

 マイルド法は胚移植が1個のみですが、GnRHアゴニスト・ロング法では2個移植した人も多くいるので、そのせいで妊娠率に差が出たのではないかと考えています。

着床率

 マイルド法とGnRHアゴニスト・ロング法で着床率(受精卵1個あたりの妊娠率)、は変わらなかったと報告しています。

 着床率で面白いデーターがあります。採卵数と着床率の関係です。

 マイルド法では、採卵数が5個の時が一番着床率が良くて(31%)、7個以上になると着床率はどんどん低くなっていきます。

 GnRHアゴニスト・ロング法では、採卵数が増えると着床率が高くなっていって、10個の時が29%で最高になります。採卵数が10個より多くなっていくとだだん着床率が低くなっていきます。

 マイルド法は注射を開始するのが生理の5日目と遅いので、まず自然に育ち始めた質の良い卵子を注射でさらに育てることになるので、採卵した卵子は質が良いものが多くて、少ない採卵数でも着床しやすくなるのだろうと推測しています。

 GnRHアゴニスト・ロング法では、自然のFSHは押さえ込んで、最初から注射で卵胞を育てるので、質の良くない卵子も育ってしまって、着床率が落ちると推測しています。

 論文の結論としては、マイルド法では、採卵数が少ないと1回の体外受精での妊娠率は少し低くなるかもしれないが、着床率は良いので1年以内に妊娠する可能性は変わらないとしています。

費用と精神的負担

 費用や精神的負担は比べるのがなかなか難しいのですが、1回の治療で言えば、マイルド法の方が費用や精神的負担が軽いのは確かだと思います。

 ただし、マイルド法の方が妊娠するまでの治療の回数が多くなる可能性があるので、そこまで考えると、どちらの負担が少ないが微妙なところです。論文でも意見が分かれています。

考えておかなければならない点

 ご紹介したヒューマン・リプロダクション・アップデートの論文は、新鮮胚移植のデーターです。またGnRHアゴニスト・ロング法では複数個の受精卵が移植されています。

 特にGnRHアゴニスト・ロング法では新鮮胚移植より凍結胚移植の方が着床率が高いので、凍結胚移植をした場合には、GnRHアゴニスト・ロング法の着床率が違ってくる可能性があります。

 逆にGnRHアゴニスト・ロング法でも全て単一胚移植にすると、妊娠率が下がる可能性があります。

 GnRHアゴニスト・ロング法で卵巣過剰刺激になったり、複数の胚移植で多胎妊娠になった場合には、費用や精神的負担が飛躍的に大きくなります。 

 今後、このような点も考えた研究が必要だと思います。

まとめ

 今回ご紹介したマイルド法は、自然に育ってきた卵胞を注射でさらに育てることで質のよい卵子だけを育てることができるかもしれないということは、興味深いデーターです。

 卵巣過剰刺激症候群の予防や、負担を少なくするために、マイルドな排卵誘発をすることが増えていると思います。マイルドな排卵誘発といってもいろいろなやり方があります。まずは注射の量を控えめにするというのが多いと思います。

 若い人、多嚢胞性卵巣症候群の人、男性因子で体外受精をする人などはマイルドな排卵誘発がいいのではないかと思います。

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