凍結胚移植のメリットを産婦人科医が詳しく解説します。
採卵してすぐに移植するのが新鮮胚移植です。2~3日目なら初期胚移植、5日目なら胚盤胞移植でしたね。受精卵を凍結して保存しておいて、タイミングを見て溶かして移植するのが凍結胚移植です。
凍結保存の技術が進歩したので、凍結したために受精卵がダメになってしまうということもほとんどなくなりました。新鮮胚移植と比べると多くのメリットがあるので、凍結胚移植をする症例が多くなっています。今では体外受精で生まれる子供の約3/4が凍結胚移植で妊娠したものです。
新鮮胚移植と凍結胚移植の比較
黄緑色のグラフに注目してください。胚盤胞を1個移植した時の妊娠率です。右が新鮮胚移植、左が凍結胚移植です。凍結胚移植の方が妊娠率が高そうですね。
多くの論文のデーターをまとめた研究でも胚盤胞移植の方が妊娠率が高いという結果になっています。
新鮮胚移植では、直前に排卵誘発剤で卵胞が多数できていて、卵胞から出るエストロゲンが異常に高くなっています。また、GnRHアゴニストにより下垂体からLHが出なくなっています。通常のホルモン環境と違うため、子宮内膜の状態が本来の着床の時と違ってしまい、着床に影響する可能性があります。
凍結胚移植なら着床しやすい状態の時に移植できるので妊娠率が高くなると考えられます。
どんな時に凍結胚移植をするのか
良い受精卵がたくさんできた時
通常、移植する胚は1個に制限されているので良い受精卵が複数できたときは残りを凍結保存します。
卵巣過剰刺激症候群の予防
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卵巣過剰刺激症候群になりそうな時には、新鮮胚移植をせず全ての受精卵を凍結保存することによってすぐ妊娠しないようにして卵巣過剰刺激症候群の悪化を防ぎます。
子宮内膜の状態が悪い時
採卵の時に子宮内膜が薄いなど子宮内膜の状態が悪そうな時は、新鮮胚移植はせずに、子宮内膜の状態の良い時に凍結胚移植をします。
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新鮮胚移植で妊娠しない時
新鮮胚移植で妊娠しなかった場合、着床しやすくなるのを期待して凍結胚移植をします。
凍結胚移植の実際
自然周期
凍結した胚盤胞を移植するのは排卵後5日目になります。いつ排卵したかを確認する必要があります。
排卵が近くなったら毎日超音波をすることでいつ排卵したかを確認することができます。
卵胞の大きさやLHサージの開始を確認したら、HCGを注射して、翌日を排卵日とする方法もあります。
ホルモン周期
自然の排卵が起きない人や排卵がわかりにくい人は、ホルモン周期の胚移植を行います。
生理が始まったらすぐにエストロゲンの薬を始めます。13~14日目に超音波で子宮内膜の状態を確認して、子宮内膜の厚さが8mm以上くらいになっていたらプロゲステロンの薬を開始します。エストロゲンの薬も続けます。
子宮内膜が薄ければ、エストロゲンを続けて再度超音波をします。
プロゲステロンを始めた日を排卵日と考えて、その5日後に胚移植をします。
凍結胚移植の問題点
凍結技術の進歩によって、凍結融解によって受精卵がダメになってしまうということはほとんどなくなりました。凍結融解後の生存率は95%以上とされています。それでも凍結融解のダメージにより受精卵がダメになってしまう可能性はゼロではありません。
問題点と言えるかわかりませんが、新鮮胚移植より巨大児が増えると報告されています。でも、逆に低出生体重児は少なくなると報告されているのでメリットになるかもしれません。
癒着胎盤や妊娠高血圧症候群が増えるという報告もありますが、はっきりしてはいません。
凍結受精卵の保存期間
凍結した受精卵は-196℃の液体窒素の中に保存されているので、半永久的に保存することができると考えられます。10年以上保存した受精卵を移植して妊娠したという報告もあります。
日本産科婦人科学会の見解では「胚の凍結保存期間は、被実施者が夫婦として継続している期間であってかつ卵子を採取した女性の生殖年齢を超えないこととする。」とされています。
まとめ
凍結胚移植には多くのメリットがあります。新鮮胚移植はせずに全例凍結胚移植をするという病院もあります。凍結胚移植を受ける方も多いと思いますので、この記事を参考にしていただければと思います。