不妊治療から出産への現場から産婦人科医がわかりやすく解説します

産婦人科専門医による妊活ガイド

セントマザー医院で起きた事故について、現在わかっている情報から考えてみました

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妊活中のみなさんも気になっていると思うので解説します

 北九州市のセントマザー医院で、不妊治療中に死亡事故があったという報道がありました。

 医師が書類送検されたというのはかなりショッキングなことです。

 セントマザー医院といえば、不妊治療で最も有名な病院といってもいいと思います。

 全国からこどもが欲しい人が、セントマザー医院で治療を受けに訪れています。

 精子の発育が途中で止まってしまっている人の治療など、最先端の治療を成功させてきています。

 今回の事故は、ネット上でも話題になっていて、不妊治療を受けている方、特にセントマザー医院で治療を受けている方に不安が広がっているようです。

 詳細な状況が公開されているわけではないので、まだ確実なことは言えませんが、今わかっている情報をもとに、産婦人科医の目から解説してみます。

どんな手術だったのか

 卵管のつまりを確認し治療するための腹腔鏡の手術が行われたということです。

 これはよく行われる手術です。私の病院でも必要な場合に行なっています。

  • 子宮卵管造影で卵管の通りがわるそう、卵管の周りに癒着がありそう
  • なかなか妊娠しなくて、子宮内膜症があるかもしれない

などといった場合に、お腹の中の状態を確認する検査と、その状況によって妊娠しやすくなるようあ処置をする治療として、負担が少ない腹腔鏡での手術を行います。

 腹腔鏡の手術の時には、卵管がちゃんと通っているかを確認します。

 子宮卵管造影の時と同じように、子宮の中から色のついた水を流して、卵管から出てくるのをカメラで確認します。

 子宮卵管造影と同じようにと言いましたが、子宮卵管造影のときは、造影剤というレントゲンに写る液体を流して、レントゲンで流れを確認します。

 

 卵管が詰まっていたのですが、つまりを治して通りを戻しました。

 子宮から流した色素(暗青色)が卵管口から出てきています。

 報道されていることから判断すると、今回のセントマザー医院での手術は、子宮卵管造影などて卵管になんらかの異常が疑われたため、腹腔鏡の手術になったと思われます。

 腹腔鏡でお腹の中を見たところ、明らかな異常はなく、色水もスムースに出たので、手術は終了と判断したようです。

 ここまではよくあることで何の問題もありません。私の病院でも同じようなことを何度も経験しています。

 異常がなかったなら手術をする必要はなかったんじゃないかと思うかもしれませんが、最終的に卵管に異常がないか、お腹の中に子宮内膜症がないかは、お腹の中を見ないと断定できないことがあります。

 卵管の異常を確認することで、タイミングもしくは人工授精の治療でよいのか、体外受精を考えた方がいいのか判断することができます。

 手術の時に、異常が見つかればそれを治療することで、異常がなくてもしっかり通水したり、お腹の中をよく洗うことで妊娠しやすくなることが期待できます。

今回の事故の問題点とは

 子宮卵管造影をしていると、数%の確率で、造影剤が子宮内膜の血管の中に流れ込んでしまうことがあります。

 レントゲンで見ていると、造影剤が子宮からお腹の血管へ流れていくのがわかります。

 そうなった場合は、そこで検査を終了しなければなりません。

 腹腔鏡の時に卵管の通りを確認する色素はインジゴカルミンというもので、血管に注射して使うこともあるので、血管の中に入ってしまっても問題ありません。

 今回の事故では、水を通した後、空気を数百cc注入したということです。空気が子宮の血管に入り込んで、それが流れていって肺につまり(肺塞栓といいます)、呼吸不全→多臓器不全となったと考えれらます。

 通気検査という卵管の検査があります。子宮からポンプで炭酸ガスを注入して、圧力の変化で卵管の通りを確認する方法です。

 通気検査は炭酸ガスや圧を測る機械が必要だったりして面倒なのと、片方の卵管だけ通っていても正常と診断されたりして正確な診断が難しいことから、最近、というよりかなり前からあまり行われていません。私もやったことはありません。

 炭酸ガスは血液に溶けやすいので、血管の中に多少入ってしまっても問題になることはありません。

 今回は、空気をしかも数百ccも入れてしまったことが問題でした。空気でも数ccであればまず問題ないと思いますが、量が多かったため、肺の広い範囲の血管がつまってしまったのだと思います。

 子宮卵管造影の時とは違って、空気が血管の中に流れ込んでしまっているかは、やっている最中には確認できません。知らない間にどんどん空気が流れ込んでいってしまったと考えられます。

 空気を入れたとしても、それが血管の中に入り込んでいく可能性はそれほど高くないかもしれませんが、実際に起こってしまいました。

 卵管に水を通すと、卵管の働きが良くなって、その後妊娠しやすくなるといわれています。

 不妊で受診した人が、卵管造影の直後に自然妊娠するということが時々あります。

 今回の執刀医も、卵管をしっかり通して働きを良くしようと、追加で空気を多量に通したのでしょうが、間違った行為でした。

法的な責任は

 法的なことは専門ではないので、個人的な見解ですが。

 執刀医に関しては、空気を大量に入れたことは、誤った行為でした。刑事罰にまでなるのかは、わかりません。

 院長も書類送検されたということですが、報道によると、通水が正常だったことを確認して、手術終了を指示していたということなので、指導監督を怠ったということで刑事責任を問われるというのは行き過ぎのように思います。

最後に個人的感想

 炭酸ガスを使った通気検査がほとんど行われなくなっているので、気体を入れる時には空気では危険だという認識が薄れてしまていたということがあると思います。

 とはいえ、空気を数百cc入れてしまったたといのは明らかに間違った行為でした。

 今回の事故で、セントマザー医院で治療を受けている方々にも不安が広がっているようです。

 私の同僚も、セントマザーで研修した先生がいます。採卵などの手技はうまくできないとすぐ交代させられると言っていました。治療(妊娠)優先の厳しい指導をしているところなんだと思ったものです。

 今現在で確認できる情報をもとに、産婦人科医の立場から今回の事故を解説しました。

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