着床しやすくするために子宮内膜に傷をつける??
最近あまり行なわれなくなりましたが、子宮内膜日付診という検査があります。排卵後5~7日目くらいに採血で黄体機能検査をすることはこちらで解説しましたね。この時に黄体ホルモンを計るだけでなく、実際に子宮内膜が黄体ホルモンの影響で着床しやすい状態になっているか、子宮内膜を少し削り取って(子宮内膜生検)顕微鏡で調べるのが子宮内膜日付診です
かなり痛い検査であることと、評価が難しいことからあまり行われなくなりました。
子宮内膜日付診をした後の排卵で妊娠することがしばしばあるので、子宮内膜に傷をつけることで妊娠(着床)しやすくなるのではないかと考えられるようになりました。
そこで着床障害がある時に、子宮内膜に傷をつけて着床しやすく方法が試されるようになりました。「子宮内膜スクラッチング」「子宮内膜損傷」などと呼ばれています。
子宮内膜に傷をつけるとなぜ着床しやすくなるのか
はっきりわかっているわけではありませんが、以下のような理由が考えられています。
着床が進むには子宮内膜が脱落膜というのに変化することが必要です。子宮内膜に傷をつけると子宮内膜が脱落膜になるのが促進されると考えられています。
子宮内膜に傷をつけることが刺激となって、着床に役立つ物質(サイトカイン、成長因子、マクロファージなど)の産生が促進されると考えられています。
どうやって傷をつけるの
胚移植や人工授精をする直前の高温期の中頃にスクラッチングをします。
欧米ではこのようなものを子宮の中に入れて子宮内膜を2mmくらいの厚みで削り取ります。これは通常は子宮体癌の診断に使われているものです。
子宮鏡を子宮の中に入れて直接目で見ながら子宮内膜を2mmくらいの厚みで削り取る方法も行われてます。
欧米ではスクラッチングを行なっている病院が多いですが、日本ではあまり行われていません。子宮内膜に傷をつけるというのに抵抗があるのだと思います。
スクラッチングの効果は
2015年のコクランレビュー(多くの論文を集めてその治療の信頼性を検証するもの)では
体外受精初回もしくは2回目の人にスクラッチングをしても効果はないが、2回うまくいかなった人にスクラッチングをすると、しない人と比べて
- 妊娠率が21%から33%に増える
- 生児獲得率が17%から31%に増える
- 流産率は変わらない
と報告されています。
スクラッチングは体外受精の直前の生理の7日目から体外受精の周期の生理の7日目の間に行われています。胚移植の直前、すなわち採卵の時にスクラッチングをするとかえって妊娠率が低くなってしまうようです。
2015年のコクランレビューでは人工授精もしくはタイミング療法でスクラッチングの効果があるか検討されています。
妊娠率・生児獲得率とも2倍くらいになると報告していますが、症例数が少ないので、まだ信頼性は低いと結論しています。
スクラッチングのデメリット
流産率の増加、妊娠時のトラブルの増加などのデメリットはないとされています。
スクラッチングは子宮の中の操作なので、痛みや多少の出血があると思われます。
子宮鏡を使ってスクラッチングをする場合は、手間と時間がかかります。子宮体癌の検査と同じようにするのであれば外来で簡単にできます。
まとめ
子宮内膜スクラッチングは日本ではまだあまり普及していませんが、海外ではよく行われています。効果があるというある程度信頼性のあるデーターもあり、やる時に痛みがありますが他にデメリットもないので、何回か体外受精がうまくいかなかった時には試してみる価値があると思います。
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