1日1mg以上葉酸を摂取しても問題ないと思われます
厚生労働省が出した「神経管閉鎖障害の発生リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報の推進について」という資料には、
「葉酸摂取量は1日1mgを超えるべきではないことを必ずあわせて情報提供するとともに、いわゆる栄養補助食品を利用することが、日常の食生活のあり方に対する安易な姿勢につながらないように周知すること」
と書いてあります。
なぜ1日1mgを超えるべきなないとしたのか、その根拠については書かれていません。
アメリカの医学研究所が1998年に、葉酸の1日摂取量の上限を1mgと設定したことがもとになっていると思われます。
この1日摂取量上限の1mgというのは、海外で行われている食品に添加された葉酸と、サプリで摂取する葉酸の合計の上限が1mgということです。通常の食事で摂取している分は含まれていません。
日本の場合は、葉酸が添加されている食品はないので、意識して葉酸が多く含まれている食品を食べているということでなければ、サプリで摂取する上限が1mgと考えてよいと思います。
なぜ1日の摂取量の上限が1mgになったのか
アメリカ医学研究所が発表した資料にその理由が書いてあります。
葉酸摂取による人体への明らかな悪影響は、今のところ認められていないとしています。
唯一の問題点としているのが、次のことです。
ビタミンB12が欠乏すると、巨赤芽球性貧血という特殊な貧血になって、手足のしびれ・感覚障害などの神経障害が重症化することがあります。
葉酸の過剰摂取は、このビタミンB12欠乏による神経障害を悪化させるという説があります。
アメリカ医学研究所は過去の症例報告から、特に葉酸を1日5mg以上摂取した人が、ビタミンB12欠乏による神経障害が悪くなっていると、考えました。
さらに、データの不確実さから、より安全を考えて基準を低くして、1日摂取量の上限を1mgに決めました。
正直言って、なぜ1mgと決めたのか根拠はよくわかりません。
本当に葉酸がビタミンB12欠乏による神経障害を悪化させるの?
ビタミンB12が欠乏すると、巨赤芽球性貧血という特殊な貧血になると説明しましたが、葉酸が欠乏しても巨赤芽球性貧血になります。
採血の検査で、普通の貧血と区別がついて、診断は簡単です。症状がないか軽いうちに検診などで診断されることもあります。
ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏ともに巨赤芽球性貧血になりますが、神経障害を起こすのはビタミンB12欠乏だけです。
ビタミン B12欠乏の人が、葉酸を摂取していると、巨赤芽球性貧血にはなりませんが、神経障害は進んでいきます。
すなわち、葉酸を多く摂取していると、
ビタミンB12欠乏で手の痺れなどの症状が出て病院を受診した
→採血で巨赤芽球性貧血ではないので、ビタミンB12欠乏が原因と診断できず
→ビタミン12の補給が遅れる
→神経障害が悪化してしまう
という可能性があるのです。
以上説明したように、葉酸の過剰が直接神経障害を悪化させるわけではありません。
アメリカ医学研究所が決めた上限への反論
葉酸の摂取量の上限を設定するのはやめてはどうかという論文がでました。
アメリカ医学研究所が、「葉酸を1日5mg以上摂取ししていると、ビタミンB12欠乏による神経障害が悪くなる」と結論するのに参考にした論文はかなり古いものです。ビタミンB12や葉酸を採血で測定することができなかった時代のものです。
今では、しびれなどの神経症状があった場合は、ビタミンB12と葉酸を採血で調べるので、巨赤芽球性貧血がなくても、ビタミンB12欠乏を見逃すことはなくなっています。
この論文では、時代遅れの心配をして上限を決めるのはおかしいと言っています。
上限を決めることの問題点とは
1日400μgの葉酸を摂取することで、神経管閉鎖障害の発生をかなり予防できることがわかっています。葉酸をより多く摂取すると、より予防効果が高まるかということに関してはデータがありません。
なので、今のところ1日400μgで摂取すれば十分と考えれられます。上限が1mgであっても問題なさそうです。
葉酸をサプリで摂取する場合は問題ないと思います。
海外のように、食品に葉酸を添加することで、神経管閉鎖障害の発生を予防しようとするとどうでしょうか。
通常の食事で摂取する葉酸の量は人によってさまざまです。
通常の食事で葉酸を多く摂取している人を基準にすると、上限を超えないようにするには、食品に葉酸を多く添加することができません。そうすると、通常の食事で葉酸の摂取が少ない人は、葉酸が足りなくなってしまいます。
上限がなければ、多くの人が十分な葉酸を摂取できるように、添加する葉酸の量を設定できるのです。
上限を気にする必要はあるのか
1日5mgの葉酸を摂取しても、明らかな副作用というのはわかっていません。
フォリアミンという葉酸の処方薬は1錠に葉酸を5mg含んでいますが、効能書きには重篤な副作用は記載されていません。
しびれなどので受診した人には、葉酸・ビタミンB12の採血が行われるようになっているので、ビタミンB12欠乏の神経障害が見逃されることもほとんどないと考えられます。
あえて1日400μg以上の葉酸をとる必要はないと思いますが、過剰についてはあまり気にする必要はないと思います。