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卵管水腫の治療は意外なことが必要になります

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卵管水腫をそのままにして体外受精をすると妊娠しにくい可能性があります

 卵胞の大きさを測るために経膣超音波をした後に、「卵管水腫があるみたいですね」と言われることがあります。

 卵管水腫があるということは卵管がつまっているということです。

 ここで問題になるのは、卵管がつまっているということだけではなくて、卵管水腫のせいで着床しにくくなることがあるということです。卵管がつまっているので体外受精をしたとしても、戻した受精卵が着床しにくい可能性があります。

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卵管水腫とは

 卵管水腫って言われてもどういうことなのか分かりませんよね。

 名前の通り卵管に水が貯まって卵管が腫(は)れてしまう状態のことです。

 なぜ卵管が腫れるのでしょうか。卵管の細胞は卵管の中に液体を分泌しています。普通はこの液体は卵管采からお腹の中に流れていきます。癒着などの原因で卵管采が閉じてしまうと、液体が流れ出ることができなくなり、卵管の中に液体が貯まってしまって卵管水腫になるのです。

 卵管は子宮ともつながっていますが、子宮の方への出口はとても狭く、流れが悪いので、卵管の中に液体がとどまってしまいます。

 すなわち、卵管水腫があるということは、その卵管はつまっているということになります。

卵管水腫があると体外受精をしても妊娠しにくくなります

 卵管水腫は卵管がつまっているということなので、不妊の原因になります。

 左右とも卵管水腫なら体外受精を考えなければならなくなりますし、片方の卵管水腫でも、なかなか妊娠しなくて結局体外受精に進むことも多いです。

 体外受精をすれば妊娠できるかというと、まだ問題があります。

 卵管水腫がある人は、卵管水腫がない人と比べて体外受精での生児獲得率が約半分になってしまうと言われています。なぜでしょうか。

 卵管水腫の中の液体は、卵管采はふさがっているのでお腹の中へは流れませんが、子宮の中へはわずかですが流れていることが多いのです。

 卵管水腫の液体は受精卵を育ちにくくしてしまうと考えらえています。また、子宮の中に液体が流れ込むことで着床しにくくなる可能性があります。

卵管水腫の治療

腹腔鏡手術で閉じた卵管采を開く

 腹腔鏡で見ると、卵管采の周りが膜で包まれていて卵管采が閉じてしまっていることがあります。この場合には膜を切り開くと、中からヒトデのような正常の卵管采が出てきて、卵管の通りを戻せることがあります。そうなればタイミング法や人工授精で妊娠することが期待できます。

 状況によっては、卵管采のヒトデのようなところがつぶれてなくなってしまっていることがあります。そうなると、たとえ切開して卵管を通るようにしても、卵管菜がないと卵子を卵管に取り込む働きがないので、妊娠する可能性は低いです。切開しただけだと、その後また閉じてしまうことも多いです。

体外受精へ・・・でもその前に

 腹腔鏡手術で正常な卵管采の状態に戻せなかった場合は、体外受精に進むことを考えなければなりません。

 でも卵管水腫をそのままにしておくと体外受精でも妊娠しにくくなります。

 卵管水腫の中の液体が子宮の中に流れ込まないようにする必要があります。

卵管水腫の中の液体を針で吸い取る

 採卵の時に卵管に針を刺して中の液体を吸い取ることで、卵管水腫がない状態で胚移植をする方法があります。

 ただし、針で液体を抜いてもまたすぐに貯まってしまうことが多く、2週間後には約35%の人にまた貯まっていたというデーターがあります。その場合、妊娠率は抜かないままの時と同じくらいになってしまうので、液体を抜いた意味はなくなってしまいます。液体が貯まってこなかったとしても、卵管水腫がない人と同じくらいの妊娠率になるということはないようです。

 液体を抜くだけでは、大きな効果、持続的な効果は期待できませんが、採卵の時に卵管水腫の液体を抜くのは簡単にできることが多いので、卵管水腫があったらとりあえず液体を抜いておくといいと思います。

卵管切除

 腹腔鏡手術で腫れている卵管を切除します。

 卵管水腫を切除すると、切除しないで体外受精をした人と比べて、妊娠率が約2倍になります。卵管水腫がある人は、卵管水腫がない人と比べて体外受精での生児獲得率が約半分になってしまうといいましたが、卵管水腫を切除すると、卵管水腫がない人と同じくらいの妊娠率になるということですね。

 卵管切除の問題点として、卵管を切除することで卵巣の周りの血管が傷ついて、卵巣への血行が悪くなり、卵巣の働きが悪くなってしまうというリスクが指摘されています。卵管を切除すると術後にAMHが低なったという論文もありますが、多くの論文ではAMHや排卵誘発剤への反応は変わらないとしています。ただし、長期的な影響はまだわかっていません。

 卵管切除する時は、卵管を全部取るわけではなく、必要最小限で取るのがいいと思います。

卵管閉塞

 腹腔鏡手術で卵管の根元をしばったり、電気でつぶして、卵管の中の液体が子宮に流れ込まないようにする方法です。

 手術後の妊娠率は、卵管切除と変わらないという論文が多いです。卵巣への血行が悪くなることはないので、こちらの方を勧めている論文も多いです。

腹腔鏡手術のデメリット

卵管切除や卵管閉塞は腹腔鏡手術で行うことになります。割と簡単な手術で1時間もかかりません。しかし手術は手術なので麻酔で具合が悪くなったり、思わぬトラブルが起きる可能性もゼロではありません。
 まれですが、癒着が強くて卵管が確認できなくて切除や閉塞ができないことがあります。
Essureによる卵管閉塞

 Essureは本来は避妊のために卵管をつまらせる装具です。欧米では10万人以上の人に使われています。日本では承認されていないので使えません。

 子宮鏡で見ながら図のような太さ2mm、長さ4cmのコイルを卵管の中に入れます。3ヶ月後には卵管が完全にふさがるとされています。

 2017年の論文で、Essureによる方法は、腹腔鏡手術(卵管切除・閉塞)と比べて、23%くらい妊娠率が低いという報告がありました。

 またEssureにはお腹の痛みが続く、アレルギー反応が出るなどの副作用が報告されています。

 もちろん、現時点で日本では使えませんが、腹腔鏡手術に取って代わる可能性は今のところ低そうです。

 Essureには子宮鏡で比較的簡単に挿入できるというメリットがあるので、癒着が強くて腹腔鏡の手術が難しそうな人にはいいかもしれません。

まとめ

 卵管水腫が疑われた時に、すぐ手術をした方がいいのかは迷うところです。

 片方だけの卵管水腫であれば、自然妊娠することもありますし、手術をしなくても体外受精で妊娠することもあります。

 これまで多くの卵管水腫の手術をしていますが、卵管采をふさいでいる膜を取り除くことで、正常な状態に戻せることもしばしばあります。また体外受精をする場合でも、手術した方が妊娠率が高くなるというのはかなり確かなことだと思います。

 卵管水腫があるけれど体外受精はできればしたくない、体外受精でよい受精卵を戻したけれど妊娠しなかった、などの場合は腹腔鏡手術を考えて見てください。

 

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