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産婦人科専門医による妊活ガイド

子宮内膜の厚さと体外受精の妊娠率との関係

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子宮内膜が薄いと妊娠しにくいのでしょうか

 体外受精の排卵誘発中に超音波をした時に、「卵胞が何個か大きくなったのでHCGを注射して採卵しましょう。ただし、子宮内膜が薄いので、すぐに胚移植はしないで、全部凍結して後で移植しましょう」などと言われることがあると思います。心配になりますよね。

 子宮内膜が薄いから移植しないというのはどういうことなのでしょうか?

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子宮内膜の働き

 妊娠するには子宮内膜が重要なのでしたね。子宮内膜が7mm以下だと妊娠しにくくなると考えられています。

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 子宮内膜が薄いと妊娠しにくいというのは、不妊治療をしている医者の共通した認識です。子宮内膜が薄いと、受精卵が着床しにくくなるので妊娠しない。ここまではわかるのですが、では、なぜ子宮内膜が薄いと着床しにくいのかという質問に答えられる医者は少ないと思います。

 実際、なぜ着床しにくいのかはっきりわかっていないからです。

 子宮内膜の奥の方には血管がありその周りは酸素の濃度が濃くなっていて、子宮内膜が薄いと、酸素濃度の濃いところに受精卵が着床するので、酸素の影響で受精卵が育たないという説があります。でも、ただの仮説にすぎません。

子宮内膜が薄くなる原因はなにか

炎症

 子宮内膜に炎症が起こると、子宮内膜が硬くなったり、子宮内膜を増やす元の細胞がダメージを受けて、子宮内膜が厚くなりにくくなってしまいます。

手術

 流産・中絶などの手術を繰り返すと、子宮内膜を増やす元の細胞がダメージを受けて、子宮内膜が厚くなりにくくなってしまいます。

先天的

 子宮の構造など先天的な原因で子宮内膜が厚くならないことがあります。

胚移植の時に子宮内膜が薄いと妊娠しにくいのか

  2014年のヒューマン・リプロダクション・アップデートに発表された多くの論文をまとめた報告があります。子宮内膜が何mm以下だと妊娠しにくいという基準値を決めることはできなかったので、子宮内膜の厚さから妊娠するか予測することはできないとしています。

 ただし、子宮内膜が7mm以下の時の妊娠率は23%で、7mmより厚い時の妊娠率は48%だったので、やはり7mmがひとつの目安となるのかもしれません。でも7mm以下でも23%は妊娠できるということです。4~5mmでも10%は妊娠したという報告もあります。

凍結胚移植の時は

 体外受精で排卵誘発をすると、卵胞が複数できて卵胞ホルモンが異常に高くなります。通常のホルモン環境と違うため、子宮内膜の状態が本来の着床の時と違ってしまい、着床に影響する可能性があります。凍結胚移植ではより自然に近い環境で移植することができるわけですが、凍結胚移植の時の子宮内膜の厚さと妊娠率の関係はどうでしょうか。

 やはり、子宮内膜が7~8cm以下だと妊娠率が低くなるという論文が多いです。

子宮内膜のパターン

 子宮内膜は厚さだけでなく、パターンも重要と言われています。

 超音波で見ると生理直後は

このように子宮内膜は薄くなっています。

 排卵直前には

このように厚くなって、葉っぱのように3本の線が見えています。これをパターンAと呼びます。

 排卵した後には

このように、3本の線はなくなって、全体が白くなります。これをパターンCと呼びます。

 パターンAとパターンCの中間がパターンBになります。

 生理直後は子宮内膜が薄くて、排卵直前(体外受精であれば採卵直前)にパターンAならOKです。排卵前にパターンCだと妊娠率が低下します。

 体外受精での妊娠率がパターンAは56%、パターンBは50%、パターンCは34%だったという論文があります。

 実際に体外受精をやっていて、採卵直前にきれいなパターンAだと妊娠しそうだなと思います。

子宮内膜の厚さと子宮外妊娠

 子宮内膜が薄いと、受精卵が着床しにくくなって妊娠しないと考えられます。子宮内膜に着床しないと、子宮外妊娠になってしまわないのでしょうか。

 体外受精の時に、子宮内膜が8mm以下だと子宮外妊娠の確率が5.6%、9mm以上だと3.2%だたという報告があります。

 やはり、子宮内膜が薄いと子宮外妊娠になる可能性が高くなるようです。

あまり心配しなくてもいい?

 体外受精の時に子宮内膜が7mm以下の人は2%くらいとされています。実はそんなにいないのです。だたし、年齢と関連があって、40歳以上だと7mm以下の人が25%だったという報告があります。

まとめ

 胚移植の時に子宮内膜が7mm以下だと妊娠率は低くなるようです。でも4~5mmでも妊娠することもあります。さすがに3mmとかだと妊娠はほとんど期待できませんが、多少薄くても希望はあります。

 子宮内膜を厚くする方法については別の記事で解説します。

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