長年の疑問についに答えが出たようです
乳がんは罹患率・死亡率とも年々増加しています。国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」のデーターです。
罹患率は100を超えています。1年間に1000人に1人以上が乳がんと診断されるということです。
乳がんは卵胞ホルモンの働きで発生して広がっていきます。ホルモン剤を飲んだり、環境ホルモンにさらされることは乳がんのリスクとなります。
体外受精をすると、普通の時とは大きく違うホルモンの状態を経験することになります。以前よりこのホルモンの環境が乳がんに関係するのではないかという疑問があり、多くの研究が行われてきました。
2016年に、約19,000人の体外受精を受けた人を21年間観察して乳がんになるかを調べた論文が発表されました。この論文で、長年の疑問に答えが出たのではないかと思われます。
体外受精の時のホルモン環境とは
通常の体外受精の時には、毎日排卵誘発の注射をして、卵胞を何個も作って採卵します。ひとつの卵胞から200~300pg/mlの卵胞ホルモンが出ます。体外受精の時には、育った卵胞数によりますが、2000~3000pg/mlくらいの卵胞ホルモンが出ることになります。この過剰な卵胞ホルモンは乳がんのリスクを高める可能性があります。ただし、卵胞ホルモンが高いのは一時的なものです。
一方で、体外受精の時に使うGnRHアゴニストは卵胞ホルモンが出るのを抑える働きがありますし、採卵後には、乳がん細胞が増えないようにする働きのある黄体ホルモンを使います。
このように、体外受精を受けた時には、乳がんに対して良い点と悪い点があります。
2016年の論文の結果
以前から多くの論文があり、なかには体外受精を受けた人は乳がんのリスクが高まるという論文もありますが、多くの論文をまとめた報告ではリスクは変わらないとされていました。ただし、観察期間が短かったので、もっと長く観察してみないと正しい結論はでないと考えられていました。
2016年の7月にJAMAというとても権威のある雑誌に、1983年から1995年までに体外受精を受けた19158人を、21年くらい観察した論文が出ました。
同時期に体外受精以外の不妊治療を受けた5590人のうち220人(3.9%)が乳がんになり、体外受精を受けた19158人のうち619人(3.2%)が乳がんになっています。体外受精を受けた人が乳がんになりやすいということはなかったのです。この発生率は一般女性の発生率と比べても差はありませんでした。
さらに詳しい解析では、体外受精の回数が多くなるほど、乳がんの発生率は低くなりました。7回以上体外受精を受けた人のは発生率は1699人中38人(2.2%)でした。
なぜ、体外受精の回数が多くなると乳がんのリスクが低くなるかについては、この論文でも明らかな理由は書かれていませんでした。上で説明した、体外受精の良い点が積み重なったためかもしれません。
まとめ
体外受精を受けることで乳がんのリスクが高くなるということはないと考えて良いと思います。むしろ体外受精の回数が多くなると乳がんのリスクは低くなるようです。
とはいっても、乳がんは増え続けています。
40歳以下なら罹患率はそれほど高くないので、まずは自己検診が勧められます。40歳を過ぎると急速に罹患率が高くなるので、マンモグラフィー・超音波などの画像診断も勧められます。