採卵の後には黄体ホルモンの補充が必要です【産婦人科医が解説】
胚移植をしたら後は祈るだけと言いましたが、移植した受精卵が子宮に着床して育つのを助けるために黄体ホルモン補充をします。
採卵後の黄体ホルモン補充は病院によっていろいろな方法で行われています。
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採卵の後になぜ黄体ホルモンが必要なのか
まずは黄体ホルモンについておさらい
排卵した後には卵胞が黄体に変化して黄体ホルモンを作ります。黄体ホルモンは受精卵が子宮に着床しやすくなるように子宮内膜の環境を整えます。黄体ホルモンを作るのを調節しているのは脳下垂体からのLHです。下垂体からのLHの働きがないと、黄体ホルモンがうまく作れません。
なぜ採卵後には黄体ホルモンが必要なのでしょうか
体外受精の排卵誘発の時にはGnRHアゴニストもしくはアンタゴニストを使うことが多いです。
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GnRHアゴニストやアンタゴニストを使うと下垂体からFSHがLHが出なくなります。GnRHアゴニストやアンタゴニストは採卵の後には使うのをやめていますが、効果はしばらく続きます。LHが低いままなので黄体ホルモンが出にくくなってしまいます。
また、体外受精の排卵誘発で卵胞がたくさんできると、卵胞から出る卵胞ホルモンがすごく高くなって、その影響で下垂体からのLHが出にくくなります。
さらに、卵胞の中にある顆粒膜細胞が排卵の後に黄体ホルモンを作る細胞なるのですが、採卵の時に卵胞の中の顆粒膜細胞も吸い出されてしまうので、顆粒膜細胞が少なくなって、黄体ホルモンが作られにくくなるということもあります。
体外受精の時には、このような理由で黄体ホルモンが不足するので、採卵した後には受精卵が着床しやすい環境を作るために黄体ホルモンを補充することが重要になります。
黄体ホルモン補充の方法
採卵後に黄体ホルモンを高くするには
- LHを使って黄体ホルモンを作らせる
- 直接黄体ホルモンを使う
とい2通りの方法があります。
HCGによる黄体ホルモン産生刺激
今のところ、LHそのものは薬として販売されていないので、LHと同じ働きをもっているHCGを使います。
採卵の36時間前くらいにHCGを注射していることが多いので、その後は3日に1回くらい少量のHCGを注射します。
卵巣過剰刺激症候群になりそうな時は、HCGを注射すると危険なので、減量するか中止にします。
HCGの注射だけではなくて、黄体ホルモンの補充と合わせて使っている病院が多いと思います。
黄体ホルモン剤による補充
黄体ホルモン剤には内服薬・注射薬(筋肉注射)・膣剤があります。
内服の黄体ホルモン剤
日本では、ルトラール・デュファストンなどの合成黄体ホルモン剤が多く使われていました。
天然黄体ホルモン剤は腸からの吸収が悪く、肝臓ですぐ分解されてしまうので効きにくいとされているのですが、合成黄体ホルモン剤は吸収されやすく、肝臓で分解されにくいです。
ただし合成黄体ホルモン剤は男性ホルモンの作用もわずかにあるので、長く使うと胎児の先天異常(尿道下裂など)のリスクが高くなる可能性があります。
注射の黄体ホルモン剤
ルテウムやプロゲホルモンという名前の注射です。筋肉注射になります。
よく使われています。安定して血中濃度を保つことができるので、効果は確実です。
毎日注射することが必要で、注射の痛みや注射したところが赤く腫れたり、硬くなってしまうことがあります。
膣剤の黄体ホルモン剤
日本では2014年から黄体ホルモンの膣剤の販売が開始されました。天然黄体ホルモン剤が使われていて、効能書きに「生殖補助医療における黄体補充」と書いあるので、安心して使えます(もちろんどんな薬でも副作用はゼロではありませんが)。
ルティナス膣錠、ウトロゲスタン膣錠という製品名です。
採卵日から開始して、最長10週間(すなわち妊娠10週になるまで)まで使えます。
膣の中から子宮へ直接的に薬が行くので、子宮によく効きます。妊娠率は注射と同じです。
注射と違って、自分で使えるので便利ですよね。膣の違和感やかぶれがみられることがあります。
海外では以前から膣剤が主流でしたが、日本でもそうなると思います。
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黄体ホルモン補充の開始時期と終了時期
採卵の日から始めることが多いと思いますが、胚移植の日からでも妊娠率は変わらないと言われています。
いつまで続けるかについては決まっていませんが、胎盤で黄体ホルモンが作られるようになる妊娠8週頃まで続けるという病院が多いと思います。
凍結胚移植の時の黄体ホルモン補充
凍結胚移植では直前にGnRHアゴニストなどを使っていないし、黄体ホルモンが出にくくなるようなことはしていないので、黄体ホルモンを補充する必要はないのでしょうか。
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自然周期の場合
自然の排卵の後に胚移植をするので、自然にできた黄体から黄体ホルモンが出ています。なので、黄体ホルモンを補充する必要はなさそうです。
論文では、自然周期の凍結胚移植でも黄体ホルモン補充した方が妊娠率が高い、流産率が低いという報告もあれば、妊娠率は変わらないという報告もあります。
実際には、自然周期でも黄体ホルモン補充をしている病院が多いと思います。黄体ホルモン剤としては内服もしくは膣錠を使います。
ホルモン周期の場合
ホルモン周期で胚移植をする場合は排卵が起きないので、自然の黄体はできず、黄体ホルモンも出ません。なので黄体ホルモン補充が必要になります。
また、卵胞ホルモンも出ないので、採卵の後も卵胞ホルモンと黄体ホルモン両方を、妊娠8周くらいまで続けます。黄体ホルモン剤としては内服もしくは膣錠をつかいます。
まとめ
頑張って胚移植までたどり着いたので、少しでも妊娠の可能性を高めたいですよね。
手間がかからず効果がある膣剤が使えるようになりました。今後は膣剤を使った黄体ホルモン補充がメインになると思います。
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