妊娠中には、「はしか」にかからないように注意が必要です
日本に麻しんウイルスが根付いていた時は、毎年春から初夏にかけて流行が認められていましたが、平成22年11月以降に検出された麻しんウイルスは海外由来型のみとなっていて、今では地域限定的な集団感染が認められるだけという状況になっています。
今年の3月に沖縄で流行したはしかが、関東地方や愛知県などにも広がりを見せて、感染者が100人を超えています。
日本産婦人科医会は5月8日に「妊娠している方へ麻疹(はしか)の流行についてのご注意」を発表しました。
それを参考にしながら、妊娠中のはしかについて解説します。
はしか(麻しん)てどんな病気?
妊活中・妊娠中のみなさんは、まわりにはしかにかかった人を見たことがなくて、はしかってどんな病気か知らない方も多いと思いますので、まずははしかについて。
一般的にははしかと呼ばれていますが、医学的な正式名称は麻しんです。
麻しんウイルスによる感染症です。
感染してから、10日後くらいに発症します。最初の症状は、発熱、咳、のどの痛み、鼻水、眼の充血などかぜと同じような症状です。
数日後に39℃以上の発熱となり、発疹が出始めます。発疹は首・おでこから全身に広がっていきます。
その後、3~4日で熱が下がり、7~10日後には症状が落ち着きます。
6%くらいで肺炎、0.1%くらいで脳炎などの重症な合併症を起こすことがあります。
妊娠中にはしかにかかると
妊娠中にはしか にかかるとどうなるかというのは、実は多くの症例を集めたデータはありません。なので、ここでご紹介する「何%」というデータは参考程度と考えてください。
妊娠中にはしか にかかると重症化しやすい
妊娠中は免疫力が低下するのでウイルスなどの感染症が重症化しやすくなります。
入院が必要になる人が多い
妊娠中にはしかにかかった人の60~100%が入院になっています。妊娠していない人と比べると3~10倍の頻度になります。
肺炎などの重症化
妊娠中にはしかにかかった人の10~40%が肺炎になっています。妊娠していない人と比べると2~3倍の頻度になります。
1988年からロサンゼルスで起きたはしかの流行の時には、はしかにかかった58人の妊婦の内、2人(3.4%)が死亡しました。妊娠していない人の死亡率0.5%と比べて6.8倍でした。
流産・早産が多くなる?
1988年からのロサンゼルスでの流行では、はしかにかかった妊婦の内、31%が流産・早産になっています。流産・早産となった妊婦の内、89%がはしかの発疹が出てから2週間以内に流産・早産となっています。
一方で、流産・早産率は、はしかにかかっても高くならなかったという報告もいくつかあるので、流産・早産が増えるというのはまだ確実なこととは言えません。
生まれた赤ちゃんの感染
出産までの10日以内に妊婦がはしかに感染していると、はしかにかかった赤ちゃんが生まれてくる可能性があります。
生まれた時や、生まれてから10日以内に発疹が出現した場合は、先天性はしかと診断されます。
頻度はかなり低いのですが、先天性はしかの赤ちゃんは、脳炎になるリスクが高くなると言われています。
出産直前に妊婦がはしかに感染していた場合は、赤ちゃんが生まれた直後に、免疫グロブリンというはしかに対する抗体が入った薬を注射して、発症の予防をします。
完全に予防できるわけではありませんが、発症しても症状が軽くてすむことが多いです。
赤ちゃんに異常が起きる?
妊娠20週以内に風疹に感染すると、赤ちゃんに異常が起きるのでしたね。
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はしか の場合は、流産・早産のリスクはありますが、赤ちゃんに奇形などの先天異常が起きることはないと言われています。
特に気をつけないといけない人は
今回の流行は、3月17日に台湾から沖縄に訪れた人がはしかを発症して、そこから広がっていったと言われています。愛知県、関東地方などにも広がっていって、感染者は100人を超えています。
今回感染している人は20~40代が多くなっています。なぜでしょう?
麻しんウイルスは感染力が強く(インフルエンザの10倍くらい)、空気感染するのですが、非常に小さいので、マスクでは防ぐことはできません。
予防接種が最も有効な予防法になります。
はしかの予防接種は1978年から1回の定期接種が開始され、2006年から2回になりました。
1回だけだと、免疫がつかなかったり、時間がたつと免疫が弱くなってしまうため2回行われています。
2007年にはしかが大流行したため、1回しか予防接種を受けていなかった中学生から高校生に追加の接種が行われました。
結果として1977年から1990年生まれの人が、1回しか接種を受けていない世代になっています。
今、28~41歳の人ということになります。ちょうど妊活世代です。
28歳以上の人(1990年以前に生まれた人)はどうすればいいの?
妊活中の方は、麻しんワクチンを受けることをお勧めします。通常は麻しんと風しんを同時に予防するMRワクチンというものが使われます。地域によってはMRワクチンに公的補助がある自治体もあるので、保健センターなどに問い合わせてみてください。
ワクチンを接種した後は、約2ヶ月の避妊が必要です。
1990年以前に生まれた人でも、はしかにかかったことがあれば大丈夫です。ただし、はしかと似たような他の感染だったのを、はしかと診断されていた可能性もあります。明らかにはしかにかかったことがあるというのでなければ、抗体の検査をして確認するか、念のためワクチンを追加接種するのがいいと思います。
妊娠中の方は、感染者との接触を避けるしかありません。
産婦人科医会から出た注意には、
感染者が多く発生している地域(海外流行地,日本での流行報告地区)へのお出かけは極力避けることを強くお勧めします。
と書かれています。
なお普段健康な妊婦さんで、「麻疹の抗体が陽性で十分に抗体価がある」、あるいは「麻 疹、MRワクチン、MMR ワクチン等の麻疹を含む予防接種を 1 歳以上で 2 回以上受け た記録のある方は、今回の妊娠中に新たに麻疹にかかることは稀と考えられます。
とも書かれています。
妊娠している方と同居されている人で、はしかにかかったことがない・ワクチンを1回しか受けていないとうい人がいる場合は、その人に追加ワクチンを受けてもらうことが望ましいです。
妊娠中の方も、お産をしたら早めに追加ワクチンを受けるようにしましょう。
ワクチンの副作用は風疹ワクチンと同じなので、こちらを参照してください。
予防接種を受けましょう
はしかや風しん(3日ばしか)はワクチン接種が唯一の予防法です。副作用は少なく、効果が高いので、とても有効な予防接種です。
妊娠しているいないに関わらず、はしかにかかってしまうと、肺炎・脳炎などの重症になる可能性がありますし、他人に広めてしまうことになります。
はしかにかかったことがない・予防接種を1回しか受けていない(1990年以前に生まれた人)は、ワクチン接種を受けることをお勧めします。