ミトコンドリアを顕微授精で卵子に注入すると妊娠しやすくなる??
自分の卵巣から取り出したミトコンドリアを精子と一緒に卵子に注入することで、今まで受精卵の育ちが悪くて妊娠しなかった人が妊娠できたという報道がありました。
画期的な治療なの?報道だけではよくわかりませんよね。この記事で解説したいと思います。
まずは卵子の老化とミトコンドリアの話から
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卵子の老化とミトコンドリア
ミトコンドリアは生物で習いましたよね。最も重要な働きは細胞の活動に必要なエネルギーを作ることです。受精卵の発育にはミトコンドリアからのエネルギーがたくさん必要なので、卵子のミトコンドリアの働きが悪くなると受精卵が育ちにくくなってしまいます。
年齢が高くなるとミトコンドリアの働きが悪くなったり、数が少なくなるとされています。年齢による卵子の質の低下には、ミトコンドリアの機能の低下が大きく関わっていると考えられます。
細胞質移植による卵子の質の改善
卵子の質が低下により体外受精をしても受精卵が育たない症例に、顕微授精で精子と同時に若い人の卵子の細胞質を移植すると、受精卵が育って妊娠できたという報告がありました。
細胞質を移植するというのは質の良いミトコンドリアを移植したということになります。
海外で実際に行われていたことがあり、30~40%の妊娠率が報告されています。
この時大きな問題となったのが、他人のミトコンドリアDNAを持った子供が生まれるということでした。
ほとんどのDNAは核の中にあるのですが、ミトコンドリアの中にもDNAがあります。このDNAにはミトコンドリアでエネルギーを作るのに働く遺伝子があります。
実際にこの治療で生まれた子供に細胞質を提供した人のミトコンドリアDNAが見つかったことで、「人類初の遺伝子を操作した子供の誕生」などと言われ大きな問題となりました。生まれた子供にそれによると思われる異常は認めらていないようですが、数が少ないのでなんとも言えません。そんなこともあり、その後はあまり報告が認められなくなりました。
自分の卵巣のミトコンドリアを使う方法
今回報道されたのは自分の卵巣のミトコンドリアを使う方法です。なので「遺伝子を操作した子供」ということにはなりません。
腹腔鏡手術で卵巣を一部摘出して、卵子幹細胞を集めてそのミトコンドリアを取り出します。それを精子と一緒に卵子に注入して授精させるのです。
この方法に関しては
- この方法が有効であるとする基礎的な研究のデーターがほとんどない(卵子幹細胞のミトコンドリアが本当に質が良いのかなど)。
- 症例数が少なくて有効性が立証されていない。
などの点から、現時点ではお勧めする治療とまでは言えません。
覚えておい欲しいのですが、医療では何人か治療してとてもよく効いたと発表されたけれども、その後続けたら結局あまり効果がなかったということがあります。
その分野の専門医から見れば、報道された新しい治療がかなり期待できるものなのか、またまだこれからなのかある程度わかりますが、専門でない人は判断できませんよね。気になるようなら主治医に相談してみてください。
まとめ
今のところ、卵子の質を改善する方法は見つかっていません。この治療法に期待がかかります。ただし、まだ理論的根拠が証明されていない・症例数が少ないことから、本当に効果があるのかはわかりません。