内服の筋腫治療薬、選択的黄体ホルモン受容体修飾薬
妊活をする年齢の女性の20~30%に子宮筋腫があると言われています。
子宮筋腫があると、着床のじゃまになる・卵管の働きを悪くする・子宮の血行に影響するなどで、不妊の原因になる可能性があります。
妊娠しやすくするための治療としては、ほぼ手術一択でした。
選択的黄体ホルモン受容体修飾薬と呼ばれる薬は、緊急避妊薬として使われていますが、子宮筋腫を小さくする効果があることがわかっています。
この薬で子宮筋腫を小さくすることで妊娠しやすくなるのでしょうか。
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選択的黄体ホルモン受容体修飾薬
「選択的黄体ホルモン受容体修飾薬」?なんのことだかわかりませんよね。
黄体ホルモン受容体
黄体ホルモン(プロゲステロン)は、排卵した後に卵巣にできる黄体から出るホルモンで、子宮内膜の環境を整えて受精卵が着床しやすくする働きがあります。
黄体ホルモンは子宮内膜に働くのですが、子宮内膜の細胞には黄体ホルモン受容体があって、そこに黄体ホルモンか付くことによって子宮内膜の細胞に変化が起きます。
選択的
黄体ホルモンは、同じ女性ホルモンの卵胞ホルモンを始めとして構造が似ているホルモンが他にあるので、黄体ホルモン受容体に付いて効果を発揮する薬を作ると、他のホルモンの受容体にも付いてしまって、余計な作用が出てしまうことがあります。
選択的というのは、卵胞ホルモン受容体などには働かないという意味です。
修飾薬
黄体ホルモン受容体に付く薬を作ると、ふつうその薬は黄体ホルモンと同じ働きをすることが多いです。このような場合、黄体ホルモン作用薬と呼ばれます。逆に黄体ホルモン受容体に薬が付くことで黄体ホルモンが働くなることもあります。黄体ホルモン拮抗薬と呼ばれます。また、同じ薬でも組織・細胞など場所によって作用薬になったり拮抗薬になる薬もあります。
受容体に付いて何らかの作用を起こす薬をまとめて受容体修飾薬といいます。
選択的黄体ホルモン受容体修飾薬の働き
緊急避妊薬
海外では、選択的黄体ホルモン受容体修飾薬は緊急避妊薬として使われています。
排卵が起きないようにすることで避妊の効果を発揮すると考えられています。子宮内膜に影響して受精卵の着床をじゃまする効果も期待されています。
現在日本で発売されている緊急避妊薬は、ノルレボという黄体ホルモンの一種ですが、選択的黄体ホルモン受容体修飾薬はノルレボよりも避妊効果が高いとされています。
ノルレボを使っても妊娠してしまう可能性が2.6%、選択的黄体ホルモン受容体修飾薬を使っても妊娠してしまう可能性が1.8%だったというデータがあります。
ノルレボは性交後72時間以内に内服することになっていますが、選択的黄体ホルモン受容体修飾薬は120時間以内に内服するとなっています。
あくまでも緊急避妊薬なので効果は万全ではありませんね。
子宮筋腫治療薬としての選択的黄体ホルモン受容体修飾薬
子宮筋腫に対する黄体ホルモンの役割
子宮筋腫は主に卵胞ホルモン(エストロゲン)の作用で大きくなると言われていますが、黄体ホルモンも子宮筋腫が大きくなるのに関係していることがわかってきて、卵胞ホルモンと黄体ホルモンが協力して働くことが必要と考えられるようになりました。
子宮筋腫の細胞にも黄体ホルモン受容体があります。
子宮筋腫の細胞は卵胞ホルモンと黄体ホルモンがあると増えるのですが、そこに選択的黄体ホルモン修飾薬を入れると増えなくなるという実験結果があって、選択的黄体ホルモン修飾薬が筋腫に効果があるのではないかと考えられました。
実際の効果は
選択的黄体ホルモン受容体修飾薬の中で最もよく使われているのが、ウリプリスタルです。アメリカでは「エラ」という商品名で販売されています。
3ヶ月の内服を1クールとすることが多いです。
筋腫の大きさは1クール後に-38%、2クール後に-53.6%、3クール後に-60.8%、4クール後に-67.0%(中央値)小さくなったというのが今のところ一番症例数が多いデータです。
子宮筋腫の治療薬としてGnRHアゴニストがあります。GnRHアゴニストは卵巣から卵胞ホルモン・黄体ホルモンが出ないようにして筋腫を小さくします。閉経後と同じ状態にするということです。筋腫を小さくする効果はGnRHアゴニストの方が同じかやや大きいくらいです。
GnRHアゴニストはやめると1ヶ月後くらいから筋腫がまた大きくなり始めるのに対して、選択的黄体ホルモン受容体修飾薬はやめてもすぐには大きくならない(6ヶ月くらい)と言われています。
選択的黄体ホルモン修飾薬の副作用
頭痛・ほてりが10%以下であります。治療回数が多くなると、この症状は少なくなるようです。
乳房の痛み・違和感が3%くらいです。
3ヶ月使うと70%くらいの人で、子宮内膜が厚くなります。選択的黄体ホルモン修飾薬による独特な変化で、子宮内膜増殖症や子宮体癌になることはなく、薬をやめると2ヶ月くらいで元に戻ります。
GnRHアゴニストは女性ホルモンを出なくしてしまうので、ほてりなどの更年期症状が強いことが多いですが、選択的黄体ホルモン受容体修飾薬は副作用が少ないと言われています。
不妊症治療に選択的黄体ホルモン受容体修飾薬は使えるか?
子宮の中に飛び出している粘膜下筋腫は子宮鏡下手術をするのがいいと思います。
子宮内膜に影響している筋層内筋腫には選択的黄体ホルモン受容体修飾薬が使える可能性があります。
選択的黄体ホルモン受容体修飾薬3ヶ月を2クールやって、筋腫が半分以下になって、子宮内膜への影響がなくなればタイミング療法(必要なら体外受精)で妊娠できるか可能性が出てきます。
選択的黄体ホルモン受容体修飾薬は効果が長く続くので、その間に妊娠できるかもしれないのです。
ただし、選択的黄体ホルモン受容体修飾薬の治療をしている半年くらいは妊娠できないので、具体的に何歳と言うのは難しいですが、年齢の若い人が対象になってくると思います。
特に、あまり大きいのはないけれど数が多い人は、選択的黄体ホルモン受容体修飾薬のよい対象になると思います。
まとめ
選択的黄体ホルモン受容体修飾薬は、日本ではまだ臨床試験中なので、発売されるまで、あと数年かかると思われます。
選択的黄体ホルモン受容体修飾薬は筋腫を半分以下に小さくすることができることが多く、やめた後も効果が続きます。
特に、筋腫1個の大きさはそれほど大きくないけれど数が多い若い妊娠希望のある女性には、手術の代わりになる可能性があると思います。