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産婦人科専門医による妊活ガイド

妊活で一番怖いのは卵巣過剰刺激症候群

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卵巣過剰刺激症候群はめったに起こらないし、ちゃんと治療すれば怖くない 

 多嚢胞性卵巣症候群と言われた人や、体外受精に進んだ人は「卵巣過剰刺激症候群」というのを耳にすることになると思います。なんか怖そうな名前ですよね。確かに重症になるとかなり苦しい思いをすることになるし、ちゃんと治療しないと大変なことになる可能性があります。

 今は、なるべく卵巣過剰刺激症候群にならないような排卵誘発法が考えられているので、卵巣過剰刺激症候群になることも少なくなっています。それでもなってしまう場合もありまが、早めにちゃんと治療すれば怖ろしい3大合併症を起こすことはほとんどありません。

 産婦人科医の視点から、卵巣過剰刺激症候群を詳しく解説します。

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卵巣過剰刺激症候群とは

 排卵誘発剤(主に注射)を使った時に卵巣の反応が良すぎると多数の卵胞が大きくなってしまうことがあります。その状態でHCGを注射すると卵巣の大きくはれてしまって、さまざまな異常を引き起こします。それが卵巣過剰刺激症候群です。業界用語ではOHSSです。重症になると入院が必要になることもあり、不妊治療の中で最も注意しなければならない副作用です。

 注射で排卵誘発をした場合、5%くらいで卵巣過剰刺激症候群になります。重症で入院が必要になるのは約1%です。

 多嚢胞性卵巣症候群の人は卵巣過剰刺激症候群になる頻度が極端に高くなります。

卵巣過剰刺激症候群になると

 大きくなった卵巣からでるレニン、キニン、サイトカインなどという物質の影響で、血管の中の水分やタンパク質が血管の外に漏れ出てしまうようになります。

 するとどうなるかというと

  •   卵巣がはれる      お腹がはる、お腹が痛い
  •   腹水・胸水が貯まる   吐き気、お腹がはる、お腹が痛い、息苦しい
  •   血液は濃縮、ドロドロ  血栓症のリスク
  •   血液の低タンパク    腹水・胸水がさらに増える
  •   尿量が少なくなる    腎不全

 程度によって軽症、中等症、重症にわけられます。重症になると入院して治療しなければなりません。

 日本参加婦人科学会による卵巣過剰刺激症候群の重症度分類です

入院が必要な場合

  • 我慢できないくらいお腹がはる・痛い
  • 息苦しい
  • 腹水でお腹がパンパン
  • 胸水が貯まる
  • 卵巣が12cm以上にはれる
  • 血液がドロドロ(ヘマトクリット45%以上)
  • 血液が低タンパク(タンパク6.0g/dL以下)

3大合併症

  1. 胸水による呼吸不全
  2. 乏尿による腎不全
  3. 血栓症による脳梗塞など

 これになったら大変です。ちゃんと治療しないと命に関わる危険があります。

 卵巣過剰刺激症候群は採卵の後に妊娠せず生理が来るとその後はすぐによくなることが多いです。妊娠すると胎盤から出て来るHCGの影響で卵巣過剰刺激症候群は再度悪化してしまいます。妊娠4ヶ月くらいまでには落ち着いてきます。

卵巣過剰刺激症候群の治療

軽症の場合は

  •  水分をとる(1日1000mlくらい、とりすぎに注意)
  •  安静にする(エコノミー症候群にならないように足は動かしてください)

などで様子を見ます。以下の場合は病院へ連絡、受診してください。

  • 症状(食欲がない、お腹がはるなど)が強くなった
  • おしっこがほとんどでない
  • 体重が急に増えた(1日1kg以上)

 

ここにも注意

卵巣のはれが4~5cm以上になると卵巣がねじれることがあります。卵巣茎捻転
痛み止めを使ってもおさまらないような激しい痛みが起きて、緊急手術が必要になります。
ねじれるきっかけとなるので激しい運度や性交渉は避けてください。

重症になった場合は

 3大合併症を起こさないように治療をします。

  •   血液を薄める  点滴
  •   尿を出す    薬:ドパミン
  •   タンパク補充
  •   血栓予防    血が固まりにくくする薬:ヘパリン

 治療にあたっては注意が必要です。

 血液を薄めようとして大量に点滴しても全部血管の外に流れ出てしまい、腹水・胸水が増えてかえって状態が悪くなってしまします。

 尿量や血液検査を確認しながら点滴やタンパクを補充する量を調節しなければなりません。

 重症卵巣過剰刺激症候群の治療は十分な知識と経験が必要なので、経験のある医師に治療を受けることをお勧めします。

 お腹のはりや息苦しいなどの症状が強い場合には、針を刺して水を抜きます。水を抜くといっしょにタンパク質が失われて低タンパクが進んだり、血液の水の漏れが加速して状態が悪化する可能性があります。ですので、水を抜くのは苦しくて我慢できないときに限られます。

 水を抜いた後はタンパクの補充が必要になりますが、抜いた水をろ過・濃縮してタンパクを集めたものを点滴で入れることでタンパクを補給する方法を使うこともあります。 

卵巣過剰刺激症候群の予防

 卵巣過剰刺激症候群で最も重要なのは予防です。

 過去に排卵誘発で卵巣過剰刺激症候群になったことがある人、多嚢胞性卵巣症候群の人などリスクの高い人は予防を考える必要があります。

排卵誘発法 

 個人個人に合わせて過剰にならないように排卵誘発法を調節します。特に多嚢胞性卵巣症候群の人は注意が必要です。合成FSH製剤を使って少量から始めて必要に応じて増やしていく方法を用います。

ステップアップ法

 FSH製剤を1日50単位の注射で開始して、1週間ごとに超音波を見て卵胞が大きくなってきていなければ25単位ずつ増やしていって、一番大きな卵胞が18mmになったらHCGを注射します。

 注射をする期間が長くなるので、手間と費用がかかってしまいます。

 ステップダウン法といって逆に最初に高用量のFSH製剤を数日注射して、その後少ない量で続けるという方法もあります。

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HCGの注射

 しかし、いくら排卵誘発法を調節してもたくさん卵胞が大きくなってしまうこともあります。

 多数の卵胞ができたとしてもHCGを注射せずに妊娠しなければ、重症の卵巣過剰刺激症候群になることはほとんどありません。

 体外受精でない場合では、多胎妊娠の予防も含めて、卵胞が4~5個(3個と言う人もいます)以上大きくなっていたらHCGを打たず、休むことが望ましいと思います。

 体外受精の場合では、卵胞数が左右合計で20(~30)個以上大きくなっている時は、妊娠すると重症の卵巣過剰刺激症候群になりやすいので、できた受精卵は全て凍結保存して別の時の子宮に戻すようにします。

 卵胞数が多くなるとそれぞれの卵胞から出るエストロゲンが合わさって、血液中のエストロゲンがとても高くなるります。採血でエストロゲンが5000pg/ml以上の場合は、なにもせずに様子を見るとエストロゲンが下がってきます。3000pg/ml以下になったら、HCGを注射して採卵すると卵巣過剰刺激症候群になりにくいといわれています。コースティング法と呼んでいます。

まとめ

 卵巣過剰刺激症候群になってしまうと、かなり苦しい思いをします。卵巣過剰刺激症候群にならないようにする工夫がいろいろ開発されているので、頻度は少なくなっています。もしなってしまったら、専門医による治療を受けてください。

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