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産婦人科専門医による妊活ガイド

多嚢胞性卵巣症候群は妊娠できるけど注意が必要

更新日:

多嚢胞性卵巣症候群といわれたら

 「妊活を始めたけれど、生理不順でうまくタイミングが合わせられない」

 そんな時、産婦人科を受診すると、

先生から「多嚢胞性卵巣症候群なので排卵がうまくいかないようですね」と言われてしまいました。

 多嚢胞性卵巣症候群??名前が大変な病気っぽい!、不安になりますよね。

 今回は多嚢胞性卵巣症候群とはどういうものなのか、産婦人科医が解説します。

多嚢胞性卵巣症候群とは

 多嚢胞性卵巣症候群、英語でいうとPolycystic  Ovary Synsrome(PCOS)

 産婦人科医は「ピーシーオー」と言っています。

 これは病気というよりは体質のようなもので、多嚢胞性卵巣症候群の人は、排卵(生理)が不順になって妊娠しにくくなる場合があります。

 成人女性の5~10%の人がこの体質と言われています。

診断方法

  1. 月経異常(生理の周期が39日以上)
  2. 多嚢胞卵巣(超音波で卵巣に小さな袋がたくさんある)
  3. 男性ホルモンが高い、またはLHが高い

 以上の3つを全て満たすと多嚢胞性卵巣症候群と診断されます。

補足

 このように卵巣に小さな水がたまった袋が多数あって、少なくとも片方の卵巣に袋が10個以上あると多嚢胞卵巣と判断されます。

 基礎ホルモン検査では、正常の場合FSHの方がLHより高いのですが、多嚢胞性卵巣症候群ではLHが上昇して、FSHよりも高くなります。また半数くらいの人で男性ホルモンが高くなっていて、それに伴って4人に1人が多毛やニキビが多いなどの症状がでると言われています。

治療

 診断方法にあるように多嚢胞性症候群と診断される人は月経異常がある、すなわち排卵がうまくいっていないので、しっかり排卵させる治療をする必要があります。ただし、多嚢胞性卵巣症候群だからといって絶対排卵しないわけではありませんので、排卵した時にうまくタイミングが合えば自然に妊娠する可能性も十分にあります。

クロミッド療法

 まずはクロミッドという内服の排卵誘発剤を使うことが多いです。内服だと卵巣過剰刺激症候群になる可能性が低いのと、通院の回数が少なくて負担が少ないからです。

 1日1~2錠を生理の5日目くらいから5日間内服します。飲み終わった後3~5日目に超音波をして排卵をチェックします。

 自然周期で排卵する場合は卵胞の大きさが20mmを超えたくらいで排卵となりますが、クロミッドを使っている時は25mmを超えてから排卵することが多いので、卵胞の大きさがが23mmくらいになったところでHCGを注射してタイミングを合わせます。

 7割くらいの人がクロミッドの効果で排卵するようになります。排卵するようになれば6ヶ月以内に6割くらいの人が妊娠できます。

注意すること

 ここで注意が必要です。クロミッドを使えば排卵を起こせることが多いです。一方でクロミッドにはエストロゲンが子宮内膜を厚くするのを邪魔する作用があるので、長く使っているとせっかく排卵して受精しても、受精卵が子宮に着くことができずに妊娠しにくくなってします。また、頸管粘液が少なくなるという副作用もあります。4~6ヶ月間やっても妊娠しない場合は他の治療へ変えることを考えなければなりません。

 また、クロミッドを内服すると複数の卵子が排卵することが多いので、多胎妊娠(双子や三つ子)になる可能性があります。

 非常にまれですが、卵巣過剰刺激症候群になることもあります。

アロマターゼ阻害剤(フェマーラなど)

 アロマターゼ阻害剤というのはもともとは乳がんに使われる薬で、卵巣以外(脂肪細胞など)からのエストロゲン産生をおさえる作用があります。下垂体からのFSHの分泌を促す作用があるので、卵胞を発育されせる効果を発揮します。

 子宮に対する作用はないので、子宮内膜が薄くなる・頸管粘液が少なくなるという副作用はありません。

 多嚢胞性卵巣症候群だと卵巣過剰刺激が心配で注射が使いにくいので、クロミッドで子宮内膜が薄くなってしまった時などには、フェマーラを使うことがあります。

 ただし、排卵誘発剤としての保険適応はないということを理解して使う必要があります。

フェマーラは乳癌に使われる薬ですが、多嚢胞性卵巣症候群の排卵誘発にクロミッドより効果があるかも?

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注射による排卵誘発

 注射による排卵誘発は別記事を参照ください。

 クロミッドで排卵しなかった場合でも、注射をすれば8割以上の人が排卵します。

 複数排卵することが多いので多胎妊娠になる可能性があります。

 多嚢胞性卵巣症候群の場合に注意が必要なのが、卵巣過剰刺激症候群です。

 別記事で詳しく解説します。

妊活で一番怖いのは卵巣過剰刺激症候群

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 卵巣過剰刺激症候群になりにくい方法として、合成した純粋なFSHを少量から始めるという方法があります。

腹腔鏡下卵巣多孔術

 カメラで観察しながら卵巣に小さな穴を15ヶ所以上開けていきます。卵巣表面にある小さな袋をつぶすように穴を開けます。

 この手術をすると術後に8割くらいの人が自然に排卵するようになるといわれています。なぜ卵巣に穴を開けると自然に排卵するようになるのかというのははっきりわかっていないのですが、卵巣に穴を開けると卵巣内の男性ホルモンが低下して、排卵しやすいようになるというのがひとつの理由として考えられています。

注射による排卵誘発と腹腔鏡下卵巣多孔術後のメリット・デメリットです。

注射による排卵誘発

腹腔鏡下卵巣多孔術

メリット

  • 排卵率が高い(80~100%)
  • 妊娠率が高い(30~60%)
  • 排卵率が高い(70~100%)
  • 妊娠率が高い(40~80%)
  • 受診の回数が少なくなる
  • 卵巣過剰刺激症候群にならない
  • 多胎妊娠にならない

デメリット

  • 多胎妊娠(20~50%)
  • 卵巣過剰刺激症候群(20~70%)
  • 頻回の外来受診
  • 手術・麻酔のリスク
  • 術後も排卵誘発剤が必要になることあり
  • 卵巣機能不全(まれ)

 上記のメリット・デメリットをよく理解した上で、主治医とよく相談して治療法を選択してください。

多嚢胞性卵巣症候群の人は、肥満や糖尿病の気があったりするので、そちらの治療が必要になる場合もあります(別記事で解説します)。

多嚢胞性卵巣症候群は妊活以外にも注意が必要です【産婦人科医が解説】

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イノシトールのサプリ

 多嚢胞性卵巣症候群の人がイノシトール(ミオイノシトール)のサプリを飲むと、排卵しやすくなる・糖尿病の体質が改善する・体外受精の妊娠率を高くなるといったデータが報告されています。

 詳しくはこちらの記事を参考にしてください。

【多嚢胞性卵巣症候群】イノシトールの効果の論文が続々と登場〜葉酸サプリといっしょに

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まとめ

 多嚢胞性卵巣症候群であっても、排卵誘発剤を使ったり、腹腔鏡手術をすれば排卵するようになって妊娠できることが多いです。ただし、多胎妊娠・卵巣過剰刺激症候群などには注意が必要です。肥満・糖尿病などの合併にも注意が必要です。

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