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産婦人科専門医による妊活ガイド

妊娠線は予防することができるのでしょうか?【産婦人科医が解説】

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妊娠線はなぜできるのか?予防できるの?

 みなさんは妊娠線って気になっていますか?

 妊娠が進むと、50~90%の人に妊娠線ができると言われています。

 実際にできた妊娠線を見て、ショックを受ける方もかなりいるようです。

 妊娠した人の60%くらいが妊娠線の予防対策をしていたというアンケート調査もあるので、多くの方が妊娠線を気にしているようですね。

 妊婦検診をしていても、妊娠線に関する相談を受けることはほとんどありません。産科医で妊娠線について関心がある人は少ないと思います。妊娠線についての発表・論文もごくわずかです。

 ネットを検索すると、妊娠線の予防法を紹介したサイトがたくさん出て来ます。クリームもいろいろあります。本当に効果があるのでしょうか。

 今回は、論文を参考にして、妊娠線についての解説をしたいと思います。

 センテラ・アジアチカの抽出液が効果があるもしれません。

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妊娠線とは

 妊娠線は妊娠24週(妊娠7ヶ月)くらいからでき始めます。妊娠30週頃には50~90%の人に妊娠線ができます。

 最初は平らなピンクで、だんだん長く幅広くなり、少し盛り上がって来て紫色になります。

数ヶ月後には色が落ちて白くなります。その後、自然に消えることはあまりありません。

 妊娠線は、お腹・胸・おしり・ふとももなどに広がります。

 美容面での問題の他に、かゆみ・ヒリヒリ感などの症状もあります。

妊娠線はなぜできるのか

 妊娠線ができる理由はひとつではありません。

お腹が大きくなって皮膚が引き伸ばされるから

 妊娠線は英語では「ストレッチ マーク」と呼ばれています。「ストレッチ」つまり引き伸ばされた、「マーク」あと、ということですね。

 皮膚が引き伸ばされて結合組織が切れてしまうことで、あとが残ると考えられます。

 ふつうに考えればこれが一番大きな理由だと思いますが、意外にも、これを疑う意見もあります。

 妊婦の妊娠する前の体重・妊娠中の体重増加などが、妊娠線ができるのと関係がないという論文があるからです。お腹が大きくなるほど妊娠線ができやすくなるわけではないということですね。

 もちろん、お腹が大きくなることが妊娠線ができる理由のひとつだとは思いますが、メインの理由ではないのかもしれません。

妊娠中のホルモン変化の影響

 妊娠中にはエストロゲン・糖質コルチコイド・リラキシンといったホルモンが増えています。

 これらのホルモンは、コラーゲンなどのファイバーを弱くして、皮膚や靭帯をゆるめる働きがあります。

 この働きによって、妊娠中にお腹が大きくなりやすく、またお産の時に骨盤が広がりやすくしているのです。

 皮膚のファイバーが弱くなって治りにくくなるので、あとが残るのです。

妊娠線ができやすい人とは

 どういう人に妊娠線ができやすいのかがわかれば、予防法もわかるかもしれません。

 妊娠線ができやすい人として考えられているのは、

妊娠前のこととして

  • 家族に妊娠線がある
  • 妊娠以前に胸やふとももに妊娠線のようなものがあった
  • 若い
  • 妊娠前の体重(BMI26以上)
  • 飲酒
  • 皮膚が白い

妊娠中のこととして

  • 体重の増えが多い(15kg以上)
  • 腹囲が大きい
  • ビタミンCが少ない
  • 水分摂取が少ない

などのことが考えられています。

 ただし、これらのことは妊娠線と関連がないというデータもあるので、明らかに証明されているものはありません。

 赤字にしたことは、自分で気をつけることができるので、みなさんも心がけてはいかかでしょうか。体重が増えすぎないようにするということは、妊娠線だけでなく、いろいろな合併症の予防にも重要です。

 ビタミンC・水分はとり過ぎにも注意してください。

妊娠線の予防はできるのか

 できれば妊娠線がまったくでなければ一番いいですが、すこしでも目立たないようにできれはいいですよね。

ライフスタイルの改善

 上で説明したように、妊娠前のBMIが26以上・飲酒・妊娠中に体重が15kg以上増える、などが妊娠線がでやすい理由になる可能性があります。こうならないように、ライフスタイルを改善することで、妊娠線を予防できる可能性があります。

 ただし、ダイエットなどでライフスタイルを改善したら、妊娠線が少なくなるのかは、データで証明されているわけではありません。

クリームで予防できる?

 可能な限りの論文を調べましたが、今のところ明らかな効果があると証明されたクリームはありません。

 ココアバター・オリーブオイルなどは効果がなかったと報告されています。

 はっきりしていないけれど、効果があるかもしれないというものを紹介します。

センテラ・アジアチカ抽出液(ゴツコーラ、ツボクサ)

 センテラ・アジアチカは南アジアや東南アジアで栽培されているハーブの一種です。

 インドなどでは、若返り・精力を高める・リラックス効果などの目的でつかわれています。

 スキンケアの効果もあるとされていて、化粧品にも利用されています。

センテラ・アジアチカ抽出液の働き

 なぜスキンケア効果があるのか、はっきりわかっているわけではありませんが、

  • 壊れたファイバーを修復する
  • 糖質コルチコイドの働きを抑える

といった働きで、傷の治りをよくすると考えられています。

 傷の治りをよくするということは、妊娠線にも効果があるのでないかと考えられます。

実際の効果は

 センテラ・アジアチカ抽出液の妊娠線の予防効果を調べた論文がいくつかあります。

 トロフォラスチン(Trofolastin)という名前の薬を使っている論文が多いです。

論文1(1991年)

 妊娠線ができた割合は、トロフォラスチンを妊娠12週から分娩まで使った人で34%(41人中14人)、つかわかなった人で56%(39人中22人)であった。

 妊娠線ができた人でも、トロフォラスチンを使った人の方が程度が軽くなった。

論文2(2013年)

 センテラ・アジアチカ抽出液の含まれているクリームを妊娠12週から使用。

 妊娠線ができたのは、使った人38%、使わなかった人33%で変わりはなかった。

 妊娠線ができた後、ひどくなっていく程度は、使った人が使わなかった人の3分の1くらい。

 

 妊娠線の予防を解説している論文では、以上の論文を参考にして、センテラ・アジアチカ抽出液は、明らかな証拠はまだないが、妊娠線を予防または程度を軽くできる可能性があると紹介しています。

ヒアルロン酸

 ヒアルロン酸といえば、しわをなくすために注入するやつですね。

 ヒアルロン酸にはコラーゲンなどのファイバーを増やす働きがあります。

 妊娠線ができるのが、ヒアルロン酸が入っているクリームを使うと30人中3人、使わないと30人中11人だったという論文があります。

 ヒアルロン酸についての論文は、症例数が少ない・比較対象に問題があるなどで、エビデンスレベルはかなり低いです。

アーモンドオイルでマッサージ

 アーモンドオイルには保湿作用、マッサージには血行をよくする作用があります。

論文(2012)

 141人の女性を3つのグループに分けて妊娠線ができる割合を比較

①アーモンドオイルを使ったマッサージを2日に1回15分:47人中16人(34%)

②アーモンドオイルだけ使って、マッサージなし:48人中31人(65%)

③なにもしない:46人中33人(72%)

 この論文では、アーモンドオイルを使ったマッサージが効果があったとしています。マッサージだけというグループがないので、マッサージだけでも効果があるのかもしれません。

 論文数が少ないので、エビデンスレベルは高くありません。

妊娠線を予防するには

 残念ながら、これをすれば明らかに妊娠線を予防できるという方法は、今のところありません。

 妊娠線の予防としてなにかするのであれば、

  1. 妊娠の合併症予防のためにも、飲酒をひかえて、体重の増え過ぎに気をつける
  2. センテラ・アジアチカ抽出液
  3. (アーモンドオイルを使った)マッサージ

などが考えられると思います。

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