顕微授精で生まれた男の子は男性不妊になる可能性があります
顕微授精が開発されたことによって、精子がとても少ない男性でも子供が作れるようになりました。
精液の中に精子がいない無精子症の人でも、精巣内精子採取術で精子が取れれば顕微授精で子供を作れます。
無精子症や精子がかなり少ない人(重症乏精子症)は、Y染色体の中の精子を作る働きをしている遺伝子が欠けているのが原因となっていることがあります。
このY染色体は、顕微授精で生まれた男の子に受け継がれるので、この男の子も精子が少ない可能性が高いです。
ちょとわかりにくいと思うので、詳しく解説しますね。
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Y染色体とは
ヒトは46本の染色体を持っています。そのうちの2本は性染色体と呼ばれていて、女性はX染色体を2本、男性はX染色体とY染色体を1本ずつもっています。
女性はY染色体を持っていないので、人間が生きて行く上でY染色体は必ずしも必要はないということになります。
では、Y染色体にはどんな働きがあるのでしょうか。
今わかっているY染色体にある働きは、男性になるのを決める働きと精子を作る働きです。このふたつは女性には必要ないものですね。Y染色体は働きが少ないのでX染色体と比べると小さくなってしまっています。
Y染色体にある精子を作る働きをしている部分が欠けていると、精子が作られにくくなるのです。
Y染色体の精子を作る部分 AZF
Y染色体の中で精子を作る働きをしている部分としてわかっているのが、AZFと呼ばれる部分です。この部分が欠けていると重症乏精子症や無精子症になります。
無精子症の10~15%、重症乏精子症の5%くらいでAZFの部分が欠けているのが見つかると言われてます。
AZFにはAZFa、AZFb、AZFcという部分があり、そのうちのどこが欠けているかによって、精子の状況が変わってきます。
AZFaの部分が欠けている場合は、睾丸の中にも精子および精子の元になる細胞もないことが多く、精巣内精子採取術をしても精子は取れません。
AZFbの部分が欠けている場合は、精子の元の細胞から精子になるまでのどこかで、成長が止まってしまっていることが多く、精巣内精子採取術をしても精子が取れないことが多いです。
AZFcの部分のみが欠けている場合は、少ないですが精子まで成長していることもあるので、50%以上の可能性で精液の中に精子がいるか、精巣内精子採取術で精子を取ることができます。
Y染色体の異常の遺伝
Y染色体のAZFの部分が欠けている人は精子がないか、かなり少ないので、従来であれば子供を作ることができなかったと考えられます。体外受精・顕微授精・精巣内精子採取術などの技術によって、このような人でも子供を作ること可能となりました。
Y染色体のAZFの部分が欠けている人から生まれた子供は、欠けたY染色体が遺伝するでしょうか。
女の子の場合は、母親と父親からそれぞれX染色体を受け継いで、Y染色体は受け継がないので遺伝することはありません。
男の子の場合は、母親からX染色体を、父親から欠けたY染色体を受け継ぐので、Y染色体の異常が遺伝します。すると、その男の子も父親と同じように精子が少ないということになるので、将来子供を作るときには、顕微授精・精巣内精子採取術などが必要になる可能性が高いです。
また、父親から男の子に欠けているY染色体が遺伝するときに、しばしば欠けている部分が広がることがあると言われています。そうすると男の子は父親よりも精子の異常の程度が大きくなっている可能性があります。
世界で初めて顕微授精で生まれた子供が、今25歳くらいなので、欠けているY染色体が遺伝した男の子の精子がどのような状態になっているのかというデーターはまだほとんどありません。
Y染色体の検査
精子濃度が500万/ml以上の人は、Y染色体が欠けていることはまれです(0.7%以下)。
精子濃度が500万/ml以下の人、特に精子が少なくて顕微授精が必要だと言われた人は、Y染色体の検査を考える必要があると思います。
病院から検査会社に依頼して検査してもらうことになりますが、保険がきかないので、4~5万円くらいかかります。
この検査でわかるのはAZFの部分が欠けているかどうかだけになります。
男性不妊症の患者に認められるY染色体の異常の94%がAZFの部分が欠けているものですが、残りの 6%はそこ以外が欠けています。
検査のメリット
精子がある人は、この検査をしたからといって、子供ができるかどうかには関係はありません。精子があれば顕微授精をすれば子供ができる可能性は十分にあります。
ただし、検査でY染色体が欠けていることがわかった場合、顕微授精をして男の子ができた時には欠けているY染色体が遺伝していると考えられるので、子供が成長した段階で早めに精液検査をして、精子を凍結保存しておくことを考える必要があるかもしれません。まだはっきりしていませんが、Y染色体が欠けていると、若い時には精子があったけれども、年を取っていくと精子がなくなっていく可能性があるからです。
無精子症の人の場合、Y染色体の検査をして、AZFaやAZFbが欠けていたら、精巣内精子採取術で精子が取れる可能性がかなり低いというこになるので、精巣内精子採取術を受けるかを判断する参考になると思います。
無精子症でAZFcの部分だけが欠けているのが原因の人は、Y染色体に異常がみつからなかった人よりも、精子を取れる可能性が高いと考えれらます。
まとめ
日本生殖医学会のガイドラインにも、顕微授精をする時には、Y染色体の異常と精子の関係・Y染色体に異常があるとそれが男の子に伝わること、を説明してカウンセリングをすることが望ましいと書いてあります。
精子の数が少なくて顕微授精が必要と言われた場合は、5%くらいでY染色体が欠けていることが原因となっている可能性があります。また、無精子症で精巣内精子採取術が必要と言われた場合は、10~15%でY染色体が欠けていることが原因となっている可能性があります。
このような場合、男の子ができた時には、しっかりカウンセリングを行って早めに精液検査をするのが望ましいと思います。
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